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ホスホマイシン耐性

概要

ホスホマイシンとは、Streptomyces fradiaeS. viridochromogenes 及びS. wedmorensis の培養生成物として発見された、 細菌の細胞壁の生合成を阻害する抗生物質であり、現在は化学合成により製造されている。 抗菌スペクトルが広く、ブドウ球菌などのグラム陽性細菌から大腸菌、サルモネラ菌、緑膿菌などのグラム陰性細菌にわたる多種多様の菌種に有効な広範囲抗菌剤として知られている。
ホスホマイシン耐性は、(1)菌体内へのホスホマイシン透過性の低下、(2)ホスホマイシン修飾酵素による薬剤の不活性化、 (3)ホスホマイシンの標的であるペプチドグリカン合成酵素の遺伝子変異によることが示唆されている。

機能に関する知見

機能を示すメカニズム

ホスホマイシンは、ぺプチドグリカン合成の最初の生合成反応を触媒する酵素MurA(UDP-GlcNAc enolpyruvate transferase, UDP-GlcNAcエノールピルビン酸トランスフェラーゼ)に結合してその活性を阻害する。
これに対するホスホマイシン耐性機構として、上記(1)~(3)のしくみが報告されている。
(1) ホスホマイシン透過性の低下による耐性機構
ホスホマイシンの菌体内取り込みに関与する糖リン酸輸送系(グリセロール-3-リン酸輸送系、グルコース-6-リン酸輸送系など)の遺伝子変異により、ホスホマイシンの透過性が低下する
(2) ホスホマイシン修飾酵素による耐性機構
ホスホマイシン修飾酵素がホスホマイシンを不活性化する。ホスホマイシン修飾酵素としては、金属酵素とリン酸化酵素が報告されている。
① 金属酵素によるホスホマイシン修飾
金属酵素が、ホスホマイシンの1位の炭素を求核置換してエポキシドを開環させることにより、ホスホマイシンを不活性化する。
② リン酸化酵素によるホスホマイシン修飾
リン酸化酵素がホスホマイシンをリン酸化して、MurAとの親和性を低下させることにより、ホスホマイシンを不活性化する。
(3) ホスホマイシン標的酵素の変異による耐性機構
ホスホマイシンの標的酵素であるMurAの遺伝子変異による構造変化により、ホスホマイシンとの親和性が低下する。
これらのうち、MiFuP Safetyでは、ホスホマイシン修飾酵素によるホスホマイシンの不活性化について、遺伝子の検出条件を検討した。

機能に関する遺伝子・酵素情報

ホスホマイシン修飾酵素について表1にまとめた。ホスホマイシン修飾に関与する金属酵素として、 求核置換反応の基質の異なる3つの酵素(FosA、FosB、FosX)が報告されている。 一般にFosA 及びFosX はグラム陰性菌が、FosB はグラム陽性菌が産生する。 一方、ホスホマイシン修飾に関与するリン酸化酵素としては、FomAとFomB が報告されている。
表1. ホスホマイシン修飾酵素
遺伝子名タンパク質名酵素活性
fosAglutathione transferase FosAMn2+とK+の存在下で、ホスホマイシンにグルタチオンを転移させて、エポキシドを開環する。
fosBmetallothiol transferase FosB (bacillithiol transferase)Mg2+の存在下で、ホスホマイシンにバシリチオールを転移させて、エポキシドを開環する。
fosXfosfomycin resistance protein FosXMn2+の存在下で、ホスホマイシンに水を付加し、エポキシドを加水分解する。
fomAfosfomycin resistance kinase FomAATP、Mg2+の存在下で、ホスホマイシンにリン酸基を転移させて、ホスホマイシン一リン酸を生産する。
fomBfosfomycin resistance kinase FomBATP、Mg2+の存在下で、ホスホマイシン一リン酸にリン酸基を転移させて、ホスホマイシン二リン酸を生産する。

参考文献

  • 渡部宏臣. (1997). 「見直される抗菌剤ホスホマイシン-小さな分子に隠された大きな可能性」『有機合成化学協会誌』 55 (3): 229-234.
  • Castaneda-Garcia, A. et al. (2013). Molecular mechanisms and clinical impact of acquired and intrinsic fosfomycin resistance. Antibiotics (Basel). 2 (2): 217-36. PMID: 27029300
  • Silver, L. L. (2017). Fosfomycin: mechanism and resistance. Cold Spring Harb Perspect Med. 7 (2): a025262. PMID: 28062557
  • Zhanel, G. G. et al. (2016). Fosfomycin: a first-Line oral therapy for acute uncomplicated cystitis. Can J Infect Dis Med Microbiol. 2016: 2082693. PMID: 27366158

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(更新日 2014/03/12)