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トレハロース生合成

概要

トレハロース (trehalose) は D-glucose の 1位還元基同士がグルコシド結合した非還元性の糖。 3種の結合異性体があるが、α,α-1,1結合のものが広く自然界に存在し、一般的にはそれをトレハロースと呼んでいる。 トレハロースの細胞内蓄積は乾燥耐性につながることが多様な生物で報告されている。

機能に関する知見

機能を示すメカニズム

細胞内にトレハロースを蓄積させ、水と置換することによって細胞および細胞内分子を乾燥によるダメージから守る。 ガラス化したトレハロースが細胞を満たすことで高次構造が保護されることが報告されている。 現在、細菌では異なる4つの出発物質についての生合成経路が同定されている。
バクテリアで同定されているトレハロース生合成経路
バクテリアで同定されているトレハロース生合成経路
NDP-glucose と glucose-6-phosphate を出発物質とする経路 (NFUNC_0031)
OtsA/OtsB pathway
NDP-glucoseとglucose-6-phosphate を出発物質とする経路。 OtsA (alpha,alpha-trehalose-phosphate synthase) は生物種によって基質特異性が異なる。
E. coli P31677 EC 2.4.1.15 (UDP-forming)
M. tuberculosis O06353 EC 2.4.1.- (NDP-forming)
R. xylanophilus B8R7Q2 EC 2.4.1.152.4.1.15 (GDP-forming)
D-glucose と ADP-glucose を出発物質とする経路 (NFUNC_0032)
TreT pathway
D-glucose と ADP-glucose を出発物質とする経路。Rubrobacter xylanophilus Q1ARU5 で TreT 単特でのトレハロース合成活性が確認されている。
マルトースを出発物質とする経路 (NFUNC_0034)
MapA/TreP pathway
マルトースを出発物質とする経路。phosphorylase である MapA と TreP によりマルトースがトレハロースに変換される。 Geobacillus stearothermophilus をはじめとする Bacillus属でこの経路を持つことが報告されている。
  • Alpha,alpha-trehalose phosphorylase, treP (NRULE_0127)
    TreP はマルトースからトレハロースを合成する MapA/TreP pathway の後半の反応を担当する酵素で、Thermoanaerobacter brockiiGeobacillus stearothermophilusCarboxydibrachium pacificum などでその活性が報告されている。
    一方 KEGG に TreP の KO が存在するが (K05342)、登録されているのは Actinobacteria のみ 21件で、これらはトレハロース合成活性が確認されている上記の TreP とは系統解析において異なるノードにグルーピングされる。Actinobacteria の TreP に関する実験情報は今のところ見当たらない。
Phylogenetic tree of alpha,alpha-trehalose phosphorylase TreP
Phylogenetic tree of alpha,alpha-trehalose phosphorylase TreP
TreS pathway
マルトースを出発物質とする経路。maltose-trehalose 間の reversible interconversion を触媒する酵素 TreS による経路。 Thermus thermophilusPimelobacter sp. (strain R48), Mycobacterium 属などで活性が実験で確認されている。 Mycobacterium smegmatis、 Mycobacterium tuberculosis では、alpha-amylase 活性を合わせ持つことが報告されているが、 モチーフ構成は EC 5.4.99.16 活性を単独で持つ TreS と全く一緒で、モチーフ構成から区別することは難しい。
Mycobacterial TreS
Mycobacterial TreS
maltooligosaccharide を出発物質とする経路 (NFUNC_0037)
TreY/TreZ pathway
maltooligosaccharideを出発物質とする経路。この経路が最初にみつかったSulfolobusArthrobacter およびその近縁種では treXYZ が並んでおり Glycogen debranching enzyme をコードする遺伝子を treX と呼んでいるが、他のバクテリアでは glg operon 内にあり遺伝子名は glgX とするのが一般的。
treZとglgX
treZとglgX

機能を持つことが知られている生物

キノコ類、パン酵母などに多く含まれているが、これ以外の生物にも広く存在する。 トレハロース生合成が実験で確認されている細菌の例として、NDP-glucose と glucose-6-phosphate から合成する OtsA/OtsB pathway は Escherichia coli 、 maltose を出発物質とする MapA/TreP pathway では Geobacillus stearothermophilus をはじめとする Bacillus属、glycogen から合成する TreX/TreY pathway は Arthrobacter sp. (strain Q36) などがある。

実用化例

甘味は砂糖の 1/3程度で、酸や熱分解に強いため商業的利用も盛んである。 食品の乾燥による品質劣化防止、化粧品の保湿成分など保水力を生かし多様な製品に使用されている。 工業的にはでんぷんを酵素で加水分解して製造している。

参考文献

  • 津崎桂二 (1997) 「トレハロース生成に関与する新規な酵素」『蛋白質核酸酵素』No. 42-6, pp834-841.
  • Wolf, A. et al. (2003). Three pathways for trehalose metabolism in Corynebacterium glutamicum ATCC13032 and their significance in response to osmotic stress. Mol Microbiol. 49(4):1119-1134. PMID: 12890033

関連外部リンク

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(更新日 2014/03/12)